日本人の睡眠時間は、世界でも稀にみる短さです。経済協力開発機構(OECD)が世界29カ国を対象に15~64歳の国民平均睡眠時間を調べた調査結果(2014年に)を発表しました。
- 1.南アフリカ 9時間22分
- 2.中国 9時間02分
- 3.インド 8時間48分
- 4.ニュージーランド 8時間46分
- 5.アメリカ 8時間36分
- 5.スペイン 8時間36分
- ・・・
- 28.日本 7時間43分
- 29.韓国 7時間41分
OECD「Balancing paid work, unpaid work and leisure 2014」
2016年における日本のGDPは、アメリカ、中国に続いて世界第3位です。GDPが1位のアメリカ、2位の睡眠時間のデータを見ると日本人よりもアメリカは1時間近く、中国に至っては1時間20分ほど多く、睡眠時間を確保でいています。日本人は、アメリカや中国よりも寝ずに働いている(一概には言えませんが)にもかかわらず、GDPでは負けているのです。これは、日本人の仕事の効率が悪さや、会社に長時間縛られていることを裏付けるデータでもあります。
睡眠不足は誰にでも経験があるでしょう。頭が重かったり、ぼーっとしたり、昼間にうとうとしてしまったり・・・。睡眠不足が続くと休日だけでは、疲労が回復できなくなってきます。これらは、短期的な症状ですが、睡眠不足が長期間続くと多くの健康被害やリスクを引き起こす原因となってしまいます。
目次
眠れないことによるストレスの増大
人間には体内時計が備わっており、人間の活動や体の状態をコントロールしています。睡眠不足により体内時計が乱れると、心身ともにストレスを感じるようになり、心と体に大きな負担がかかるようになります。
体に現れる代表的な症状としては、慢性的な片頭痛や緊張型頭痛、体がフワフワするように感じるめまい(浮動性めまい)、うつ病や不安症などの心の病もストレスが関係していると考えられています。
ストレスが睡眠不足の原因となりますし、睡眠不足がストレスの原因にもなるという悪循環が生まれています。社会的要因で生じるストレスを解消することは難しいので、せめて睡眠不足にはならないようにしましょう。
免疫システムの弱体化
睡眠をとることによって、人間の免疫システムは正常に保たれています。十分な睡眠がとれていないと、体内で抗体やサイトカリン(免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質)の生産量が低下するので、細菌やウィルスなどへの抵抗力が弱体化していまいます。
睡眠不足によって免疫が低下すると、風邪や元気なときは発症しないような感染症にかかる恐れがります。
肥満の恐れ
睡眠時間が短く、起きている時間が長いとその分消費カロリーは大きくなります。消費カロリーだけに注目すると、睡眠不足は体重減につながりそうです。
食欲をコントロールする作用があるレプチンと呼ばれるホルモンは、睡眠中に生産されます。睡眠不足によりレプチンの生産量が減ると「お腹がいっぱい!」という満腹信号が食欲中枢へ送れなくなってしまうので、太りやすい状態になります。
レプチンに対して、「もっと食べたい!」という空腹信号を送るグレリンというホルモンがあります。睡眠不足になると満腹信号を送るレプチンが減り、空腹信号を送るグレリンが増えるので、食欲をさらに増大させてしまいます。
情緒不安定
睡眠不足のとき、イライラいして怒りっぽく、短気になっていませんか? 普段であれば受け流せるような言動に対して、よけいなストレスを抱えてしまいます。イライラしている状態は、同僚や友達にもよい影響を与えませんし、自分への評価を下げてしまいます。
睡眠不足はうつ病や不安症などの精神疾患の原因にもなります。うつ病を発症すると、意欲を喪失し普段はできていたことができなくなり、仕事だけでなく私生活にも大きな影響を及ぼします。また、うつ病の症状のひとつに睡眠障害があります。睡眠導入剤などで解決することもできますが、放っておくと睡眠不足が続き、さらにうつ症状を悪化させる悪循環に陥ってしまいます。
認知機能の低下
認知機能は、記憶力、言語能力、判断力、計算力、遂行力の5つに分類されます。あなたは寝不足のとき、これらの認知機能が低下していることを実感しているでしょう。頭がぼーっとして、仕事や勉強がはかどらないばかりか、大きなミスをおかしてしまった経験をもつ人もいるかもしれません。
認知機能が低下した状態で車の運転や作業機械の操作を行うことは、非常に危険です。深夜のツアーバス、長距離運送業者の睡眠不足が原因の交通事故は、記憶に新しいでしょう。
血圧の上昇
高血圧は塩分過多な食事などが原因の場合もありますが、睡眠不足も原因であるとの研究結果があります。睡眠時間が5時間未満の場合、高血圧のリスクは1.7倍になるそうです。睡眠不足が原因で副交感神経に対して交感神経が優位になり、心臓の働きが強まると伴に血管が萎縮し、血圧が上昇します。心臓の働きが強まり、血管が収縮して血圧が上昇してしまいます。
高血圧は死につながる可能性もある心臓発作や脳卒中を引き起こす原因なので、高血圧の人は、食生活の改善と伴に睡眠時間を十分に確保することが必要とされています。
いかがでしょうか。これまでの健康リスクが複合的に生じると、深刻で命に関わるような慢性疾患に発展する恐れがあります。たかが睡眠不足とあなどらず、休めるときに休むのが賢明です。土日に休めばいいと考えているあなた、本当に休めますか? 不意の休日出勤、家族サービスなどが生じるかもしれません。